2012年12月29日土曜日

ゲーミフィケーションについて考える。

ここ1年くらいで、「ゲーミフィケーション」という言葉をよく耳にするようになりました。でも、日常会話でもよく使っていながら、あらためて「ゲーミフィケーションって、何?」と聞かれると、説明するのはなかなか難しい概念です。このあたりで、一度、まとめてみようかと思います。

具体的な事例から考えてみましょう。

まず思い浮かべるのは教育分野です。例えば、「質のよい教育を、すべての人々のために」を理念とする、すばらしいオンラインラーニングサイト「カーンアカデミー(khanacademy)」。「教育の未来とは、こういうものになるのではないか」と言われるほど高い評価を受けていますが、「ゲーミフィケーション」を効果的に取り入れたサービスとして有名です。

カーンアカデミーは、サルマン・カーン氏により立ち上げられた非営利教育団体で、世界のトップクラスの講義を無料で提供しています。数学のコンテンツが有名ですが、他にも科学、歴史、生物、経済等の多様な科目で、2600本以上のビデオと自主学習用資料を有し、世界中で学ばれています。これまで教育を受けることができなかった発展途上国では、学校教育にも活用され、教育機会の拡大に貢献しています。

カーンアカデミーのシステムは、本当によくできており、それぞれに適した速度で学習できるようになっています。生徒と先生をグループ化して、生徒の学習の進捗をモニターできるしくみも提供され、学校の授業にも活用されています。

学習ムービーに他の生徒のコメントがついていたり、学習の達成に応じてバッジがもらえたり、知識マップがビジュアルに表示されたり、学習者が意欲をもって学び続けられるゲーム的要素を導入して、様々な工夫で学習能率をあげようとしています。

カーンアカデミーについては、「SMATOOS」のサイトにわかりやすい説明があります。
多くの人達がカーンアカデミーを選ぶ理由。
http://jp.smatoos.com/?p=264


マーケティング分野では、「Nike+ 」がよくとりあげられます。
ゲーミフィケーションの事例としては必ずといっていいほど紹介されるものです。

「Nike+ 」は、ナイキが販売するNike+専用ガジェットを購入することで参加できるサービスです。専用ガジェットはシューズに取り付けるタイプ、腕時計タイプ、ブレスレットタイプなど複数用意されていて、利用者の活動・運動を測定することができます。走った距離、消費したカロリー、歩いた歩数などを自動的に記録し、ネットに接続することでデータをNike+上にアップロードできます。アップされたデータは日々蓄積され、自分の活動状況がビジュアルにグラフなどで表現されます。





毎日の目標を自分で設定し、活動データを蓄積。目標の達成状況に応じて様々なバッジが付与されたり、Facebookと連動することで、Nike+を使っている友人と運動量による「ランキング」が表示されるようになっていたり。運動を続けるための心理的動機付けを与え、意欲を高めるためのこれらの工夫には、「ゲーミフィケーション」の考え方が取り入れられています。


ゲーミフィケーションとは?

以上の例から、ゲーミフィケーションをひと言で言えば「ゲームで使われている動機付けのしくみを活用すること」だと言えるのではないかと思いますが、 IT Proのサイトでは、以下のようにまとめられていました。
ゲーミフィケーションは、ゲームを独自の視点から眺めます。ゲームで遊んでいる人は、お金をもらうためにゲームで遊んでいるわけではありません。自分でやりたいと思ってゲームをし、時に多くの時間を投じ、複雑なルールであっても自ら進んで覚えようとし、うまいやり方を試行錯誤を通じて学習していきます。ゲームが人をこのようにさせる仕組みに注目するのがゲーミフィケーションの視点です。よくできたゲームに人は夢中になりますが、それはこの仕組みを備えているからと言えます。つまり、ゲームとは人を動機付ける仕組み、「動機付けエンジン」を備えている娯楽コンテンツであると考えられます。ゲーミフィケーションとは、この「動機付けエンジン」は実はゲームでないものでも機能する、という発想を具体化する取り組みのことを指します。

IT pro「企業のためのゲーミフィケーション」より引用
第2回 ゲーミフィケーションとは?
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20121225/446592/

ゲーミフィケーションというと、娯楽性と誤解している人もいるようですが、そうではなくむしろ、「夢中にさせてしまうメカニズム」の方にポイントがあります。

私は以前、ヘルスケア分野のウェブサービスの開発に関わった経験がありますが、その際にも、いかにすれば健康のための習慣を継続させる「動機づけ」を行えるかは、大きなテーマでした。その頃にも、ゲーミフィケーション的な発想はありましたが、その実現は困難でした。しかし、その後インターネット技術は急速に進化し、できることは飛躍的に増えてきていると感じます。ソーシャルツールなどを含め、インフラが整ってきたことで、ゲーミフィケーションの発想は、より実践しやすくなってきています。

マーケティング分野でも、マイレージプログラムなど、動機づけを目的とするしくみはたくさん導入されてきました。しかし、「ゲーミフィケーション」は、人間の感情や習性を巧みに利用したゲームのメカニズムを取り入れることで、それらを高度化し、より有効なプログラムにしていこうとする点が新しいのだと思います。マーケティング分野だけでなく、教育、ヘルスケア、スポーツ、社員教育、福祉、社会問題、政治の分野など、実践の領域は無限とも言えます。

接客やマネジメントなどのノウハウの開発においても、「ゲーミフィケーション」の成果を応用できる余地は大きいのではないかと思います。「ゲーミフィケーション」の概念を明確化することで、わくわくするようなアイデアが生まれてくるような気がします。